REUTER:2013年 08月 22日 16:15 JST
海に放射性物質を漏らした東電に対して漁業者の反発は強く、事態打開の鍵を握る非汚染地下水や低濃度水の海洋放出も難航が予想される。汚染水処理は同原発の廃炉作業にとって最大の障害となっているが、抜本策の展望が開けないまま、一段と危機の度合いを深めつつある。
<海に漏れた汚染水、漁業者の不信招く>
廃炉作業が進む福島第1原発では、地下水流入により1日約400トンのペースで汚染水が増加し、ほぼ同量を地上のタンクに収容し続けてきた。4月には地下貯水槽からの汚染水漏れもあり、6月までにこの分も全て地上タンクに移送した。
その結果、保管している汚染水は約33万トンにまで蓄積。総容量が約39万トン(8月中旬時点)にとどまっているタンクの増強は避けられず、東電は2015年中頃には70万トン、2016年度中には80万トンに増やす計画だ。
タンクでの保管とともに、東電は地下水を原子炉建屋に入る前にくみ上げ、「バイパス」を通じて海に放出することで、汚染水の発生量そのものを低減させる計画も打ち出した。この作戦で海に流すのは汚染前の水。地元の漁業者の理解が得られれば、汚染水問題の解決へ大きく前進するはずだった。
しかし、その道を自ら閉ざしたのは東電側、という声がいま地元の漁業者に広がりつつある。「地下水バイパスは、県漁連執行部としては協力すべきだと考えている。何とか漁業者の理解を得ようと努力してきた」と福島県漁業協同組合連合会(県漁連)の野崎哲会長は話す。「漁業者の間で汚染水と(汚染前の)地下水の区別がつき始めていた。ただ、東電は汚染水を海に漏らさないとずっと言っていたのに、漏れてしまった。これは危機的でしょうというのが漁業者の受け止めだ」。
汚染水の海への漏えいを否定し続けた挙げ句に、東電は参院選の投開票日翌日(7月22日)にようやくその実態を認めた。地元の協力姿勢に水を差す、東電の不透明な対応。漁業者の反発を受け、汚染前の水を海に流す作戦は実施できていない。
一方、汚染前の水だけでなく、汚染濃度を許容レベルまで低めた水を海洋に放出するという方法も、同様に立ち往生する可能性がある。汚染水を貯蔵するタンクは無尽蔵には作れない。汚染水から除去可能な放射性物質を取り除く同作戦について、原子力規制委員会の田中俊一委員長が記者会見で必要性に言及し、茂木敏充経産相も低濃度汚染水を放出する方針を示唆するなど、政府関係者による実施への地ならしは始まってる。
しかし、漁業者にとって、低濃度水の放出はどこまで認められるのか。福島県漁連の野崎会長は、「汚染された水の意図的な海洋流出は止めてほしい」との立場だ。放出する水は放射能濃度が十分に低いものが対象になるとして、政府は今後、漁業者に理解を求めるとみられるが、野崎氏は「国際機関の評価をもらわないと駄目だろう」と厳しい条件を付ける。
海洋への放出がままならない中、福島第1原発の汚染水処理は、地上タンクでの保管に頼らざるを得ないのが現状だ。しかし、今月20日には、頼みのタンクから約300トンの汚染水が漏れていたと東電は発表。漏れた汚染水から、ストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり8000万ベクレルと極めて高い濃度が検出された。
タンク漏れを発表した当初、東電は汚染水が海に流れた可能性について否定的だったが、21日には「汚染水が海に流れた可能性は否定できない」との見解を示した。漏れた汚染水は排水溝を通じて外洋に流れた可能性があるという。
問題となったタンクは、鉄の胴体部の接合部を樹脂製のパッキンで挟んでボルトで締めて組み立てる構造。接合部を溶接するタイプの方が保管性能が高いが、組み立て型は「早期に建設できる」(原子力・立地本の尾野昌之・本部長代理)というメリットがあるため、最近まで増設の大半を占めてきた。
この組み立て型について、メーカーが保証するパッキンの耐用年数は5年。タンクの運用開始から既に2年近くになるが、3年後にはパッキンなどタンク部品の交換や修理が大きな課題となる可能性がある。東電は今後増やすタンクは溶接型を主体とする方針だが、約1060基あるタンクのうち組み立て型タンクは約350基あり、早期の抜本的な入れ替えは困難だ。
<議論わかれる発生ルート、つかめぬ実態>
福島原発の汚染水処理に効果的な抜本策が取れない背景には、高い放射線量が障害となり原子炉建屋内に人が入れず、そこに溜まっている汚染水の状況やその発生メカニズムもいまだに正確に把握できていない、という事情もある。
汚染水が発生するメカニズムについて、政府の説明はこうだ。福島第1原発1─4号機には1日約1000トンの地下水が流入し、このうち約400トンが原子炉建屋などに流入して、残りの約600トンの一部(推定300トン)が配管や電線を通す地下のトレンチ内の汚染源に触れ、海に放出されている。ただし、建屋の中に入り込んで汚染された地下水は、建屋周辺の地下水よりも水位が低いので外に漏れ出すことはない、という。
これに対し、産業技術総合研究所・地圏資源環境研究部門の丸井敦尚・総括研究主幹は、「政府や東電の説明は完全ではない」と指摘する。建屋周辺の地下水は約100メートルほど離れた海水の潮位変動を受けるため、建屋内の汚染水が地下水に混じる可能性があり得るためだ。
5月下旬以降、福島第1の海岸近くのエリアで高濃度の放射性物質の検出が目立ってきたが、丸井氏は「海岸べりが汚染されるルートは4つほどあると思っている」と話す。4ルートには東電などが説明するようにトレンチからの漏水を含む。その上で、同氏は最悪のシナリオとして、「あっては困るのが、メルトスルーが起きて、燃料が(建屋の)外側に落ちて直接地下水を汚染するパターンだ」と指摘する。
そのメルトスルーが起きている可能性がどの程度高いかについては、「観測データがないから技術者、科学者の立場では何とも言えない。ただ、可能性は十分あるので調べないといけない」と強調する。同氏は、「敷地の中の地下水の全体像を把握するためにも、観測井戸をもっと増やさないといけない」と述べている。
汚染水処理に絡む東電の対応について、経産省内に設置された「汚染水処理対策委員会」のメンバーである国土交通省・国土技術政策総合研究所の藤田光一・研究総務官は、「個人的な感想だが、危機的な状況の繰り返しだから、どうしても目の前に起きた事象への対処が中心になる」と指摘。「最前線での取り組みと並行して、余裕をもって全体を見る姿勢をもっと強めていかないといけない」と、東電に注文を付けている。
(浜田 健太郎 編集;北松 克朗)
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