戦前、思想や言論、結社の弾圧に使われた治安維持法の「協議罪」が「共謀罪」と名を変えて再現された。自首による刑の減免規定は、密告社会をつくることにつながる。
(引用)
秘密保護法 共謀罪 心の中も取り締まる
信濃毎日新聞 2013年11月24日(日)社説より
戦前、思想や言論、結社の弾圧に使われた治安維持法は「協議罪」が多用された。
この法律は特定の思想を持った結社を組織することやその組織への加入を処罰することを主眼とした。そこに、話し合うだけで処罰する協議罪を盛ることで、組織に加入するという実行行為の前段階での取り締まりを可能にした。
典型が全国で1600人近くが逮捕、拘留された1928(昭和3)年の3・15事件だ。逮捕された人の多くは、共産党や労働農民党などに入党していなかった。
この協議罪が「共謀罪」と名前を変え、今、衆院で審議されている特定秘密保護法案の中に入り込んでいる。しかも、共謀罪については自首すれば、刑を軽くするだけではなく、免除するとまで規定する。これが何を意味するのか―。国会審議でもほとんど論議されず、修正協議でも取り上げられなかった隠れた重要問題だ。
<監視社会になる心配>
日本の刑事法では、犯罪は実行行為があって初めて処罰する。国の統治機構を破壊する内乱罪などごく一部の例外を除いて、謀議(犯行の話し合い)だけでは罰しないのが原則だ。
刑事法の専門家によると、心の中の問題で人を処罰した治安維持法の苦い教訓によって、戦後、共謀罪を規定することには抑制が働いてきた。
それが働かなかったのが01年の自衛隊法改正による共謀罪の新設だ。ただ、その対象は秘密漏えいに限られている。
特定秘密保護法案では、情報を取得しようとした側にも共謀罪が適用される。秘密をつかんでいなくても、何とか得ようと誰かと話し合っただけで、処罰される場合がある。
しかも、共謀は言葉を交わさない「暗黙の了解」でも成立するとされる。罪は心の中に及ぶ。捜査側から見れば、共謀罪があれば情報漏えいという結果が発生しなくても、治安維持法のように、その前段階で取り締まることができる。
それにしても、どうやって話し合っただけのことを知ることができるのか―。実はそこに、自首による刑の減免規定が密接に関わっているのだ。
捜査当局は、あなたは罪に問わないから話し合った内容を教えなさいと密告を促すことができる。あるいは、市民団体などの中に協力者をつくったり、潜入させたりし、共謀が行われた時点で協力者に自首させる方法もある。
実行行為がなく物証が乏しいので、逮捕された人の取り調べも自白強要になりやすい問題がある。
実際に立件されなくても、この規定があるだけで、人々を疑心暗鬼にさせ、相互監視社会をつくりだす。非公開の情報にアクセスする市民の行為を萎縮させるのは明らかだ。
<通信傍受の拡大も>
この法案と前後して進む気がかりな動きがある。通信傍受法の対象拡大だ。
この法律は、犯罪の首謀者らの摘発を目的に2000年に施行された。対象の犯罪を薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4分野に限り、捜査機関が裁判官の令状に基づき電話やファクス、電子メールを傍受することを認めている。
この傍受対象の拡大が、法相の諮問機関、法制審議会の特別部会で検討されている。一昨年に発足した部会は本来、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を契機に、取り調べの録音・録画(可視化)を法制化するのが主なテーマだった。
ところが、可視化によって組織犯罪などの摘発が困難になるとする検察、警察が見返りとして、捜査をしやすくする通信傍受の拡大を求めている。
拡大されれば、特定秘密保護法案の共謀罪のように立証しにくい罪が通信傍受の対象になる可能性は高い。法案の検証に取り組む弁護士グループはそうみている。
86年に発覚した神奈川県警による共産党幹部宅電話盗聴事件で、公安警察の違法な情報収集活動が明らかになった。傍受対象の拡大は、こうした活動に法のお墨付きを与えることになりかねない。政府に批判的な個人や団体には、秘密取得の共謀の恐れがあるという理由で盗聴される可能性がつきまとうことになる。
<憲法を掘り崩す>
共謀罪新設をめぐる経過は、もぐらたたきのようだ。
03年以降、組織犯罪処罰法の改正案の中に盛り込む形で国会に3回提出された。恣意(しい)的な適用の恐れがあるとして野党のほか日弁連、市民団体などが強く反対。いずれも廃案になった。すると今度は特定秘密保護法案の中に顔をのぞかせた。
「内心の自由」は、思想・良心の自由、信教の自由、集会・結社・表現の自由として憲法で保障されている。共謀罪という“もぐら”は、これを掘り崩す。
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